労働時間法制の見直し

残業時間の上限規制

従来の枠組み

◎ 法定労働時間 

 原則として1日8時間、1週40時間

(例外)商業、映画・演劇業(映画製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業に従事し、常時使用する労働者が10人未満の事業場 ⇒ 1週の法定労働時間は44時間

◎ 36協定

法定労働時間を超える場合でも、労働者の過半数で組織する労働組合 (ない場合には、労働者の過半数を代表する者)と労使協定を締結し、監督官庁へ届け出たときは、時間外労働が可能になる。

◎ 限度時間

36協定による労働時間の延長については、厚生労働省の「時間外労働の限度に関する 基準」(限度基準告示)が存在する。但し、これに違反しても使用者に罰則はなし。

  

また、以下に該当する事業・業務には、上限規制は適用されない。

  

◎ 特別条項(36協定)

特別な事情により、あらかじめ限度時間を超える残業が見込まれる場合には、36協定に特別条項を 設けることで一定期間(6か月以下)の時間延長が可能。

【特別な事情】

予算・決算業務、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、納期のひっ迫、大規模なクレームへの対応、機会のトラブルへの対応など「一時的」または「突発的」な業務

⇒ 「業務の都合上必要なとき」「業務繁忙なとき」「使用者が必要と認めるとき」など包括的な定めは不可。

★ 特別条項による延長については、法令や通達にも、限度となる具体的な時間が定められておらず、実質的に「青天井」と批判されていた。

「働き方改革」による変更点

◎ 時間外労働の限度時間を法律に明文化

⇒ 原則として月45時間、年360時間 (告示の内容から変更なし)

★   法律に上限時間が規定されたため、これに違反する内容の36協定は無効。

★ 36協定が無効になった場合には、従業員が行った残業は違法な時間外労働になる。

⇒ 罰則の対象

★ 36協定の相手方が法律上の要件を満たしていない場合にも、協定が無効になるため注意が必要。

 (例)過半数代表者としての選出手続きを経ていないケース

◎ 時間外労働が限度時間を超えた場合の上限の設置

特別条項で定めることのできる延長時間数について、以下①~③の上限を設けた。

①  年720時間以内

⇒ 限度時間を含む上限枠

【例】

限度時間を月45時間に設定していた場合には、720時間から月45時間×6か月分の合計270時間を差し引いた450時間が上限となる。

②  月100時間未満(休日労働を含む)

③  複数月の時間外労働の平均が月80時間以内(休日労働を含む)

⇒ 今回の法改正で新設された条件

1か月、1年単位だけではなく、2か月~6か月平均で月80時間を超えてはいけない。

★ 実務上、繁忙期が2か月、3か月と続くような職場は注意が必要になる。

◎ 36協定を締結する場合の協定事項の追加・変更 

⇒ 主に特別条項を定めるケースで、新たな届出事項が追加等されている。

【例】

①「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」

⇒ 「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針案(イメージ)」参照(第145回労働政策審議会労働条件分科会資料)

②「時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1か月について100時間未満でなければならず、かつ、2か月から6か月までを平均して80時間を超過しないこと」

⇒ 労使で確認のうえ、チェックボックスに☑を入れる必要がある。

  36協定届の記載例(特別条項:様式第9号の2)

  36協定届の記載例(様式第9号)

★  チェックがない場合には無効となるため要注意。

年次有給休暇の取得

◎ 使用者による年次有給休暇の時季指定

年休の法定付与日数

  

【注】

1週間の所定労働日数が通常の労働者より少ない者については、その日数や継続勤務年数に応じて1~15日の年休が付与される。

原則として、年次有給休暇の取得については、労働者側に主導権がある。

⇒ しかし、労働者からの申し出がしにくいという声を受けて、一部について、使用者による時季指定を義務付け。

【対象労働者】 年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者

【時季指定を行う日数】 5日

【取得期間】 基準日から1年以内

※ 基準日:継続勤務した期間を6か月経過した日(雇入れの日から起算して6か月を超えて継続勤務する日)から1年ごとに区分した各期間

 【例】

4月1日入社の場合には10月1日

⇒ 労働者が既に5日以上時季指定している場合には、使用者による指定は不要。

(参考) 年次有給休暇の消滅時効は2年(2018年現在)

時間外労働の割増賃金引上げ

◎ 月60時間を超える残業について、中小企業の割増賃金率を引き上げ(従来実施されていた中小企業への猶予措置を廃止)

  

【引き上げ後の割増率】

  

★ 法定休日労働と所定休日労働

法定休日:使用者が定める毎週少なくとも1回(または4週間を通じ4日以上)の休日(

労基法35条)

 所定休日:法定休日とは別に会社が定める休日

「休日出勤」でも、所定休日であれば「法定休日労働」には当たらない点に注意。

労働時間の客観的な把握

◎ 現在も、使用者は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(2017年1月20日策定)により、労働者の労働時間を客観的に把握するよう求められている。

 ただし、裁量労働制が適用される人や管理監督者は対象外

◎ 今回の改正により、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者を含め、使用者がすべての人の労働時間の状況を客観的な方法その他適切な方法で把握するよう法律(安全衛生法)で義務付けられた。

⇒   把握した労働時間をもとに、長時間働いた労働者に対する医師の面接指導を実施する

★ 労働時間:使用者の指揮命令下に置かれている時間

  労働契約、就業規則、労働協約などの規定ではなく、実態を見て判断される

【労働時間とみなされる例】

① 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた 所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

  ⇒ 会社の更衣室で制服に着替える場合、接客後の片づけを行う場合など

② 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

    ⇒ 昼休み中の電話番として事務所に残る場合など

③  参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

    ⇒  会社の指示で免許取得のための講習を受講していた場合など

 ◎ 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

(1)  始業・終業時刻の確認・記録

使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。

⇒  1日何時間働いたかではなく、労働日ごとの始業・就業時刻の確認等が必要

(2)  始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。

 ① 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。

 ② タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

 Q1 労働者の「自己申告」による労働時間の把握は認められないのか?

 A1 例外的な措置として可能。但し、ガイドラインに従い一定の対策を講じる必要がある。

 Q2 一定の対策とはどのような措置か?

 A2 ガイドラインに定められた内容は、以下のとおり。

  

 Q3  法令で定める方法を守れなかった場合には、使用者に罰則が適用されるのか?

 A3  現在のところ、根拠となる条項(安全衛生法66条の8の3)に違反した場合でも、罰則の適用までは予定されていない。

雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保


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