会社の法律相談Q&A

Q 当社は、譲渡制限株式の発行会社です。株主Aから、A名義の当社株式をBに売却するとの連絡がありましたが、当社はBと関係があまり良くなく、どのように対応すべきか悩んでいます。

A 株主AからBへの株式譲渡を希望しない場合には、会社として、当該譲渡を承認しないことができます。

 譲渡制限株式の発行会社では、株式の譲渡に当たり、概要以下のような手続きが予定されています。
① 株主は、会社に対し、株式数や譲受人の氏名等を明らかにして、株式譲渡の承認請求を行う
② 会社は、株主総会または取締役会の決議により、株式譲渡を承認するか否かを決定する
③ 会社は、株主に対し、株式譲渡の承認・不承認に関する通知を行う
(注)株主総会、取締役会のどちらの決議が必要になるかは、定款の記載に従います。

 株主AからBへの株式譲渡を拒むときは、原則として、Aの請求から2週間以内に、Aに対して不承認の通知をしなければいけません。この期間を過ぎると、会社は譲渡を承認したものとみなされますので、注意してください。

 また、株式譲渡を承認しない場合には、会社は、当該株式を自ら買い取るか、会社の指定する者に買い取らせる必要があります。この際には、Aに対し、所定の期間内にその旨を通知したり、法律で定める買取金額を供託するなどの手続が求められますので、お困りの場合にはお近くの専門家にご相談ください。

  なお、株主Aが上記①の手続きを行わない場合には、会社は、引き続きAを株主として取り扱うことができます。

Q 当社は、譲渡制限株式の発行会社です。取締役Aが退任するため、Aの保有する当社株式を買い取ることにしました。どのような手続きを取ればよいでしょうか。

A 特定の株主から自己株式を買い取る場合には、以下の手続きが必要になります。

① 全株主に対し、株主Aからの自己株式の取得を目的とした「株主総会の招集」と「売主追加請求権」(注1)に関する通知を行う

② 他の株主B、Cから売主追加請求があった場合には、株主B、Cについても株主総会の議案の「売主」に追加する

③ 株主総会において、自己株式の取得に関する特別決議(注2)を行う

④ 特別決議の範囲内で、自己株式の取得に関する取締役(会)決議を行う

⑤ 株主A、B、Cに対し、買取り通知を行う

(注1)売主追加請求権:A以外の株主が、自分の保有する株式も買取りの対象に追加するよう会社に要請する権利

(注2)特別決議:議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となる決議

会社が自己株式を買い取る場合には、売主に対して出資金の払戻しを行うのと同様の効果が生じます。会社法には「株主平等の原則」が定められているため、会社が株主Aに買取り(出資金の払戻し)の機会を与える場合には、他の株主との関係でも同等の取扱いをしなければなりません。このような理由から、上記①~⑤の手続きが定められています。

なお、自己株式の取得は、会社法で定める財源規制(買取金額の上限)の範囲で行う必要があります。また、株主への通知や決議内容等についても一定の要件が定められていますので、お困りの場合にはお近くの専門家にご相談ください。

Q 当社は、譲渡制限株式の発行会社です。取引先のA社から資本提携の申し出があったため、新株を発行してA社に引き受けてもらう予定ですが、どのような手続きが必要でしょうか。

A 会社が、特定の第三者に対して新株を発行することを「第三者割当増資」といいます。この「第三者割当増資」を行うためには、以下のような手続きを取る必要があります。

① 株主総会を招集する

② 株主総会において、募集株式の数、払込金額、払込期日等の「募集事項」を決定する

③ A社との間で、総数引受契約(発行する新株をA社が全て引受ける契約)を締結する

④ A社が株式の代金を払い込む

(注)総数引受契約の代わりに、(ⅰ) 会社から第三者に対する募集事項の通知、(ⅱ) 第三者による引受けの申込み、(ⅲ) これに対する会社の割当決定(第三者に引き受けてもらう株式数等の決定)、という手続きを取ることも可能です。今回は、手続きを簡略にするため、引受人が1名の場合によく行われる総数引受契約による対応を前提にしています。

 会社が、特定の第三者に対して新株を発行した場合には、発行済みの株式総数が増加し、既存の株主の持ち株比率が下がることになります。

 例えば、発行済みの株式数が100株の会社で、株主ABが50株ずつ株式を持ち合っていたケースを考えてみましょう。この場合、会社がCに100株の第三者割当増資をすると、50%だったABの持ち株比率は25%に低下し、他方で、Cは発行済み株式総数の半分を手に入れることになります。また、ABのうち1人の協力が得られれば、Cが会社の実権(株主総会での議決権の75%)を握ることも可能になり、株主間の力関係が変動する可能性もあります。

 このように、第三者割当増資は既存の株主にも重大な影響を与えるため、上記②の株主総会では、特別決議(議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上が賛成する決議)による手続が必要とされています。 

Q 当社は、創業者である父が代表を務めていますが、最近、高齢のため体調が思わしくありません。家族は父と母、兄と私の4名ですが、兄は県外に暮らしており、家業は次男の私が継ぐ予定です。どのような準備をしたら良いでしょうか。

A 事業承継に当たっては、特に、創業者が所有する株式の取扱いが問題になります。


 創業者が200株の株式を所有しており、生前に相続対策を行うことなく亡くなった場面を考えてみましょう。この場合、創業者の所有する株式は、妻と息子が法定相続分(妻:1/2、子:各1/4)に従って相続しますが、これにより妻が100株、息子が各50株の株式を取得するわけではありません。相続人は、持分割合に応じて、200株の株式全体を「共同で所有」する権利を持ちます。そのため、議決権を行使する場合には、共有者間で代表者(権利行使者)を定めて会社に届け出るなどの対応が求められます。

 このような状態を解消するには、相続人間で協議し、共有者の一人(後継者)が他の相続人の共有持分を買い取る必要が生じますが、残念ながら円満に解決しないこともあります。創業者がご健在なうちに、株式の生前贈与や遺言書の作成(後継者への株式の遺贈)など、必要な事業承継対策を取ることをお勧めします。一定の要件を満たす場合には、税制面での優遇など中小企業に向けた支援措置もありますので、お近くの専門家にご相談ください。

 なお、本社の敷地や建物が創業者の個人名義になっているような場合にも、同様の注意が必要です。

Q 万が一の場合に備えて、私が所有する当社株式を後継者(子)に相続させる遺言を作成しようと思います。どのような方法がありますか?

A 遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があり、一般的には①又は②の方法が取られます。

① 自筆証書遺言

 自筆証書遺言とは、遺言の作成者が、その内容と日付、氏名を自書して捺印したものをいいます。原則として手書きによる必要がありますが、財産目録だけは、パソコンで作成したものを添付することが可能です。この場合には、財産目録のページ毎に、手書きで署名捺印をしなければなりません。

作成した遺言書は、自宅で保管したり、手数料を払って法務局に預けることができます。但し、自宅保管の場合には、開封前に家庭裁判所で「検認」という手続を取る必要があります。

② 公正証書遺言

 公正証書遺言とは、法務大臣が任命する「公証人」の関与を受けて作成する遺言です。遺言者は、遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを書面にします。最後に、遺言者と証人2名がその内容を確認し、間違いがなければ公正証書に署名捺印をして遺言手続きが終了します。作成した遺言書は、公証役場で原本を保管し、遺言者には写し(正本)が渡されます。

 

 上記①②の方法には、それぞれメリットとデメリット(手軽さ、費用負担、有効性の争われやすさ、検認手続きの要否等)があります。財産の種類や遺言の内容、相続人間の関係性等を考慮し、事情に応じた選択を行うことが重要になりますので、必要に応じてお近くの専門家にご相談ください。

Q 私は会社を経営しており、個人で所有する土地建物を会社に賃貸しています。将来に備えて、後継者(長男)に主な財産を相続させる遺言を作成しようと考えていますが、相談した友人から「遺留分に気を付けた方がよい」と言われました。遺留分とは何でしょうか?

A 遺留分(いりゅうぶん)とは、亡くなった方の配偶者や子ども、親など一定の相続人に保障される最低限の相続財産のことをいいます。

遺留分は民法で定められた権利であり、遺言書の内容にかかわらず、遺留分の権利を持つ相続人は一定の相続財産を取得することができます。ただし、兄弟姉妹が相続人の場合には遺留分はありません。

例えば、Aが「全財産を長男に相続させる」という遺言書を作成して亡くなったケースを考えてみましょう。亡くなった当時、Aには配偶者Bと長男C、長女D、次男Eがいたとします。Aの遺言によれば、相続財産はすべて長男Cが受け継ぐことになりそうですが、この場合でも、他の相続人は長男Cに対し、民法に従って遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます。

このような相続トラブルを避けるためには、事前にB、D、Eの遺留分を確認し、遺言書の内容をBらの遺留分を侵害しない形に変更するなどの対応が考えられます。

遺留分の割合は民法に定められていますが、事例のように配偶者と子ども3名が相続人の場合には、配偶者の遺留分は相続財産の1/4、子どもは各1/12になります。 遺留分について詳しい内容をお知りになりたい場合には、お近くの専門家にご相談ください。

Q 当社は、個人向けの住宅リフォーム等を行う株式会社です。お客様の自宅を訪問してリフォーム契約を締結した2週間後に、クーリング・オフの申し入れがありました。法定のクーリング・オフ期間(8日間)は経過していると思いますが、応じなければならないのでしょうか?

A 一定の場合には、法定期間が経過した後でも、クーリング・オフが認められるケースがあります。

 クーリング・オフとは、契約書面等(法定書面)を交付した日から一定の期間に限り、無条件で契約の解除を認める制度です。訪問販売の場合には、クーリング・オフ期間は8日と定められているため、契約から2週間が経過していれば「もう大丈夫」と思われるかもしれません。

 しかし、特定商取引法では、この「法定書面」に記載すべき事項を細かく指定しており、一部の記載が抜けていたときは、クーリング・オフ期間の進行に必要な「法定書面」の交付がなかったものとして取り扱われます。この場合には、必要事項を充足した書面が交付されるまでの間、クーリング・オフ期間(8日)は開始せず、顧客はいつでも契約の解除をすることができます。

【記載が必要な事項】

商品の価格、支払時期・方法、引渡時期、クーリング・オフの告知(赤枠・赤字で表示)、事業者の名称・住所・電話番号・代表者の氏名、担当者の氏名、契約日、商品の型式など

裁判例では、法定書面の記載事項のうち「法人代表者の氏名」や「販売担当者の名」が抜けていたため、契約日から約2か月が経過した後のクーリング・オフを認めた事例もありますので、ぜひご注意ください。

 

Q 当社は、時計の修理を専門に行う株式会社です。修理中に不測の事態が発生した場合に備えて、契約書に「当社は、お客様に生じた損害について一切の責任を負いません」という条項を入れたところ、お客様からこのような規定は無効だと言われました。

A 現在の条項は消費者契約法に違反して無効となるため、内容を変更する必要があります。

 契約書の中に、事業者の債務不履行が原因で消費者に損害が生じた場合に、事業者の賠償責任をすべて免除する条項を入れたとしても、当該条項は消費者契約法により無効となります(8条1項1号)。

 そのため、債務不履行の有無を問わず、事業者が「一切の責任を負わない」とする条項は効力を持ちません。また、同様の観点から、事業者に「故意」または「重過失」がある場合に、事業者の責任の一部を免責する条項も無効になります(同2号)。


 なお、実務では、「当社が負う損害賠償責任の範囲は、金〇〇円を上限とします」等、事業者の責任を一定の範囲内に制限する条項をよく見かけます。従来は、このような場合にも、消費者契約法で無効となる範囲を除いて条項どおりの効力(一部の免責)が認められるケースがありましたが、法改正(2023年6月施行)により、当該規定は無効として扱われます(同法8条3項)。


 このような事態を避けるためには、必ず、「当社に故意または重大な過失がある場合を除き、当社が負う損害賠償責任の範囲は、金〇〇円を上限とします」など、当該条項が事業者に「軽過失がある場合」のみに適用されることを明らかにする必要がありますので、ご注意ください。

 

Q 当社は、インターネットで健康食品やサプリメントを販売しています。法改正により、定期購入に関する取引への規制が厳しくなったと聞きました。どのような点が変わるのでしょうか?

A 通販サイトでの販売にあたって、取引内容を消費者に分かりやすく表示することが必要になりました。

定期購入に関するトラブルの増加を受けて、特定商取引法が改正され、2022年6月1日から新たな取引規制が設けられました。この法改正により、事業者は、定期購入商品について、最終確認画面で以下のような事項を表示する義務を負います。

【表示が求められる事項】

①各回に引き渡す商品の数量   ②引渡し回数   ③各回の代金  ④代金の総額           ⑤各回の代金の支払時期及び方法 ⑥各回の商品の引渡時期など

 上記以外にも、事業者に対しては、返品や解約時の連絡方法・連絡先、返品や解約の条件等を消費者が見つけやすい位置に表示することや、期間限定販売を行う場合は、その申込み期限を表示するなどの対応が求められます。

 これらの義務に違反した結果、消費者が取引内容を誤認して申し込みを行った場合には、定期購入に関する契約の取消しが認められる可能性があります。

また、特定商取引法では、事業者が行う取引内容の表示について、法令やガイドラインで詳細なルールを設けていますので、対応に悩む場合にはお近くの専門家にご相談ください。

 

Q ライバル会社に人材が流出するのを防ぐため、従業員に対し、退職後は競合他社に就職しないという誓約書への署名捺印を求めようと思います。何か注意が必要な点はありますか?

A 誓約書の内容によっては、後日トラブルになった場合に、裁判所から合意の効力を否定されるリスクがあります。

 従業員は、会社の秘密情報を使用して事業活動を行うため、退職後に競合他社に就職した場合には、自社の秘密情報が流出したり、自社の競争力が大きく低下するなどの可能性があります。そのため、上記のような誓約書を取得し、従業員に競業避止義務を負わせる取り組みが広く行われています。

 しかし、従業員には「職業選択の自由」という憲法上の権利があります。そのため、従業員に競業避止義務を負わせたい会社と、自分の希望する会社に就職したい従業員の権利が衝突し、様々な場面で「どちらが優先すべきか」という問題が生じます。
 この問題については、すでに多くの裁判で争われており、従業員から誓約書を取得した場合でも、競業避止義務の内容によってはその効力が否定されることが明らかになりました。具体的には、以下の6つの判断要素に照らして、競業避止義務の内容が「必要最小限度のもの」といえるかどうかが問題になります。

【判断要素】
① 守るべき企業の利益があること  ②従業員の地位(競業避止義務が必要な立場か)
③ 地域的な限定の有無  ④競業避止義務の存続期間  ⑤禁止される競業行為の範囲
⑥ 代償措置の有無

 このうち①については、ライバル会社に人材が流出することにより、営業秘密や独自のノウハウなどが流出するリスクがあれば、「守るべき企業の利益がある」といえるでしょう。また、②についは、対象となる従業員が営業秘密に深く関与する立場あれば、競業避止義務を課す必要性が高くなります。
 ③④については、例えば、在職時に担当していた営業地域やその隣接地域に限って競業を禁止する場合や、競業避止義務の期間を退職後1年間に限定する場合などが考えられます。⑤については、例えば競合他社への転職ではなく、在職中に担当していた顧客との取引に限って禁止するのであれば、競業避止義務は認められやすい傾向にあるでしょう。⑥の場合には、競業避止義務を負うことを前提として退職労金や高額の給料が支給されている場合には、代償措置の存在が認められやすくなります。

 このように、競業避止義務の有効性は、個別の事情に応じて結論が異なりますので、ご注意ください。最後に、ご参考として、競業避止義務が有効とされた事例、無効とされた事例の一部をご紹介します。

① 有効とされた事例
・ 退職後6か月、顧客への営業活動を禁止(東京地裁平成11年10月29日)
・ 退職後1年間、同業他社への転職等を禁止(東京地裁平成19年4月24日)
・ 退職後2年間、在職時に担当したことのある営業地域(都道府県)やその隣接地域での顧客への営業活動を禁止(東京地裁平成14年8月30日)

② 無効とされた事例
・退職後6か月間は場所的制限なしに、2年間は在職中の勤務地または「何らかの形で関係した顧客その他会社の取引先が所在する都道府県」での競業・役務提供を禁止(東京地裁平成24年3月15日)
・退職後3年間、同業他社への就職等を禁止(大阪地裁平成28年7月14日)
・退職後に同業他社に就職等した場合に、無期限に顧客への営業活動を禁止(福岡高裁令和2年11月11日)

 なお、上記①のケースでは、いずれも、会社に営業秘密やノウハウ等の「守るべき利益」があり、これらの利益を守るために、従業員に一定の競業避止義務を負わせる必要性があることが前提とされています。そのうえで、対象となる地域や期間、禁止行為の範囲等を考慮し、退職後の競業避止義務が「必要最小限度」にとどまるかどうかを判断していますので、お悩みの場合にはお近くの専門家にご相談ください。

無料相談予約受付中 022-399-6483 受付時間:平日9:15~18:00 お気軽にお電話ください メールでのご予約はこちら