ハラスメント対応の実務

本記事でわかること

  • 1.ハラスメントの裁判上の取り扱い、ハラスメントに対応する弁護士の着眼点、その問題点、実情を知り、クライアントである使用者に対して積極的な注意喚起をし、労使関係上の問題を未然に防ぐ方法
  •  
  • 2.問題発生後であっても、問題意識を欠く使用者に対して情報提供と起こりうる危険性の指摘をし、労使間紛争の拡大を防ぐ方法
  •  
  • 3.弁護士の業務の一部を知り、弁護士との連携・活用方法を見直し、依頼者の満足度を高める方法
  • 予防のための就業規則対応等の業務拡大方法

 

〇ハラスメント(Harassment)とは・・・?

「嫌がらせ」のことを指します。ハラスメントには多くの種類があり、

  • ・セクシュアルハラスメント
    ・パワーハラスメント
    ・マタニティハラスメント
    ・アカデミックハラスメント
    ・モラルハラスメント
    ・エイジハラスメント
    ・ドクターハラスメント
    ・レイシャルハラスメント
    ・アルコールハラスメント

などが挙げられます。

〇ハラスメントが問題になる場面

駅ですれ違った人?

偶然電車に乗り合わせた客同士?

趣味で参加している乗馬同好会の仲間同士?

一定のルールが支配する閉じられたコミュニティ。

少人数の職場、特に中小企業はハラスメントが発生しやすい環境。

〇セクハラとは・・・?

セクシュアルハラスメント(Sexual Harassment)のこと。

均等法11条1項
”事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。”

・対価的セクハラ=性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者が
その労働条件につき不利益を受けること

・環境型セクハラ=又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること

〇均等法上のセクハラが、直ちに損害賠償の対象となるか?

・性的な冗談を言ったりからかったりする
・食事やデートにしつこく誘う
・性的な噂をする
・性的な体験談を尋ねる
・肩を揉む
・裸の画像のスクリーンセーバーを使う

目的の違いによって法律が異なる。

・均等法:男女平等の職場環境の確立・維持
・民法の不法行為:被害者の被害回復

〇賠償責任を負う場合

・契約上の義務を負っていない関係
 →不法行為(民法709条等)
・契約上の義務を負っている関係
 →債務不履行(民法415条等)

〇時効になる場合

・不法行為:損害および加害者を知った時から3年
・債務不履行:10年(一般債権の時効期間)

〇賠償額

・不法行為:弁護士費用1割

〇立証責任の違い

立証責任とは 、裁判所または裁判官が、ある事実の有無について確信を抱けない場合に、その事実の存在を前提とする法律効果の発生または不発生が認められないことにより被る、一方当事者の不利益のことを指します。立証とは、「裁判所の事実認定」です。立証責任は請求する側(原告)にありますが、使用者責任など請求される側(被告)に立証責任の転換がなされている場合があります。

〇セクハラの該当性判断基準の事例

金沢セクハラ事件(名古屋高判H8.10.30)
行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべきである。

相手の意に反することが必要である。誰を基準としてそれを判断するかが重要となる。

心理的負荷による精神障害の認定基準(基発1226第1号)
<セクシュアルハラスメント事案の留意事項>
①被害者が勤務継続や被害軽減のために加害者に迎合的な行動(メール送信・誘いの申入れ等)を行うことがあり、これらの事実がセクハラを単純に否定する理由にはならない。
②被害者は、被害を受けてからすぐに相談行動をとらないことがあるが、この事実が心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと
③被害者は、医療機関でもセクハラを受けたということをすぐに話せないこともあるが、初診時にセクハラの事実を申し立てていないことが、心理的負荷が弱いと単純に判断する理由にはならないこと
④加害者が上司であり被害者が部下である場合、行為者が正規職員であり加害者が非正規労働者である場合等、行為者が雇用関係上、被害者に対して優越的な立場にある事実は心理的負荷を強める要素となりうること。

〇セクハラ事件の判例

東京地裁八王子支部H8.4.15
→被害者は女性教師。加害者は小学校校長。
委員会主催の中学校見学に参加し、その後有志による懇親会に出席。懇親会終了後、加害者が被害者を誘って、2人で閉店時刻である午後11時まで居酒屋で飲食。駅付近でオートバイに乗ろうとした被害者の後をついてきた加害者がズボンのチャックを下ろして性器を露出し、被害者の手を掴んで無理やり性器にこすりつけた。被害者はこれを繰り返し拒絶した事案
→慰謝料50万円を認容(請求は200万円)
千葉地裁H10.3.26
建設会社代表取締役が、用事もないのに被害者従業員(事務員。会社には他には男性従業員1名、女性従業員1名がいた)を仕事後の食事のあとホテルで姦淫した事案。それまで加害者は、事務所の台所で洗い物をしている被害者を後ろから、抱きしめて胸や腰などを触る、キスを求める、被害者が拒んでいるにもかかわらず、スカートの中に手を入れる等していた。
→慰謝料として請求額330万円全額を認容
東北大学セクシュアル・ハラスメント事件(仙台地判H11.5.24)
→被害者は大学の元助手の女性。大学院博士課程に在学中、指導担当教官であった助教授(妻子あり)から、継続的に身体的接触や性関係を強要される等のセクシュアルハラスメントを受けたとして提訴。
助教授は、性的関係を認めたものの、助教授の地位は最年少の副助教であり、影響力は小さく、絶対的なものではなく、あくまでも性的関係は、原告の自由意思に基づく恋愛関係の中でのことであって、加害者が指導教官としての地位を背景に強引に性関係をせまったものではない等の反論。
→「被告(助教授)は教育上の支配従属関係を背景として、原告が指導を放棄されることを恐れて強い拒絶ができないことに乗じて、原告が不快感を抱いていることを知りながら、原告に抱きついたり、手を握るといった直接の身体的接触に及んだ上、自分の研究室で原告に背後から抱きつくといった性的接触を繰り返すなど、原告に対する性的言動を直接行動にまでエスカレートさせ、結果、原告の性的自由を侵害した」
「関係を拒絶されるや、論文の書き直しを命じて報復した上、研究科の調査に対しても、当初偽造の診断書を提出したり、他大学の教官に偽証まで依頼して自己の責任を免れようと図るなど、事後の態度も卑劣かつ狡猾と言わざるを得ない。これら諸点に本件に現われた全ての事情を勘案すると、原告の慰謝料としては、金750万円と認めるのが相当である。」
日本HP事件(東京地判H17.1.31)
→取締役等に次ぐ地位にあった加害者が、秘書であるA、派遣社員Bに対して、自分の膝に座らせる、やらせてという発言、胸を触るなどのセクハラをした事案
→「原告は、被告において役員に次ぐ地位にあり約80人の従業員を管理監督する立場にあったにもかかわらず、立場上、拒絶が困難なA、B女に対し自らセクハラを行なっていたのであってその責任は極めて重い」としてセクハラの事実を認定
→会社が加害者を懲戒解雇したのに対して、弁明の機会が付与されていなかったから無効である旨加害者が主張
→「被告会社では「業務上の行動指針」において差別や嫌がらせの禁止、これに違反した場合に懲戒解雇を含む厳罰を科する旨明示」しており、「被告が、セクハラ被害を申告した者や他の女性従業員への影響を考慮してセクハラ行為をおこなったものに対して厳正な態度で臨もうとする姿勢には正当な理由があるというべきである。」として懲戒解雇を有効とした。また懲戒解雇手続きについても就業規則に弁明機会付与の規定がない以上、弁明の機会を付与しなかったことを持って直ちに無効とすることは困難。原告に事前の弁明の機会を与えた場合、A,Bに有形、無形の圧力がが加えられることが容易に推認することができ、本件懲戒解雇の通告と同時に原告に弁明の機会を与えたことはやむを得ない措置であった」と判断

〇セクハラが確認された場合の加害者対応

加害者に対する懲戒処分
①就業規則の懲戒事由の確認
②処分内容の決定
→書面による注意指導にとどめるか懲戒処分を実施するか
→実施するとしてその種類・程度の決定 
 ・加害者の過去の処分歴や日常の勤務態度を検討
 ・当該企業における過去の処分例とのバランス
 ・一般論としては、懲戒解雇には慎重であるべき
  (退職勧奨)
③手続面の検討
④懲戒処分理由書の作成
⑤懲戒処分を公表したいとの相談を受けた場合
処分内容の決定にあたり参考になる基準
→人事院通達(職職H12.3.31)の標準例
▶︎ア 暴行もしくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした職員は、免職又は停職とする。
▶︎イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という)を繰り返した職員は、停職又は減給とする。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とする。
▶︎ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った職員は減給または戒告とする。

〇パワハラとは・・・?

パワーハラスメント(Power Harassment)のこと。

同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいい、上司から部下に対して行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる(厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」H24.1.30)

〇パワハラの該当性判断基準

・パワハラの特殊性

セクハラは正当なものが存在しないのに対してパワハラは、正当な場合がある
→判断が難しい
→目的が正当で、手段・態様が目的との関係で合理性があるかどうか
・パワハラの類型
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損、侮辱、暴言等 )
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視 )
④過大な要求
⑤過少な要求
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

〇パワハラの違法性判断(判例)

①身体的な攻撃を加えるケース
ヨドバシカメラ事件(東京高判H18.3.8)
→従業員に対する接客訓練中に、従業員の笑顔が不十分であったとして、上司がポスターを丸めた紙筒で従業員の頭を強く30回殴打し、さらにクリップボードで約20回頭部を殴打した
→「上司が、会話練習の際、社員に対し、怒号を発して、二つの机越し(合わせて幅1メートル強)に、販売促進用のポスターを丸めた紙筒様の物で頭部を強く約30回殴打したこと、及び上司が、上記紙筒によって殴打した後、同紙筒が破損したため、机上のクリップボードを取り、その表面(板の平らな部分)及び側面の両方を使って、ある程度の力を込めてさらに社員の頭部を約20回殴打したことが認められ」「上記認定の暴行の行為(強さ、回数)等を考慮すると、教育目的があったとしても違法性がないとは認められない」旨判示し、20万円の慰謝料支払いを命じた。
日本ファンド事件
→約半年間、連日のように「たばこ臭い」と言って扇風機を部下らに当て続け(これにより部下は抑うつ状態となり1か月の休職)(①)、部下を呼びつけて話をし、激昂して部下の膝を足蹴にした(②)という行為について違法な暴行として不法行為に該当するとし、行為者である上司および会社に対して(使用者責任)、部下Aにつき60万円、部下Bにつき20万円、部下Cにつき10万円の賠償義務を認めた。
②精神的な攻撃を加えるケース
三菱電機コンシューマーエレクトロニクス事件(広島高判H21.5.22)
→従業員Xが、会社で特定の従業員について「会社のお金を何億も使い込んで、今の職場に飛ばされたんだ」と特定の従業員を誹謗中傷したり、匿名で会社に対して「会社にサンプルの不正出荷をしている人がいる」と電話をした。そこで会社の人事担当者であり、Xの上司にあたるYが調査目的でXを会議室に呼び出し、1時間半にわたって面談を実施した。Xは発言を否定し、終始ふてくされた態度を示して、横を向いていたため、Yが声を荒げて「証拠はもう取れてるんだぜ」「使い込んだ証拠持ってこい。何億円の!」「本当に俺は許さんぞ。辞めてもらう!」等の発言をした。これをXがボイスレコーダーで秘密録音していた。

→控訴審では「Xの上記の中傷発言があったことを前提としても、・・・Yの発言態度や発言内容は、X提出のCD-R(ボイスレコーダー)のとおりであり」、「Yが大きな声を出し、Xの人間性を否定するかのような不相当な表現を用いてXを叱責した点については、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えているものであり、Xに対する不法行為を構成するものというべきである。」「もっとも・・Yが感情的になって大きな声を出したのは、Xが・・Yに対してふて腐れ、横を向くなどの不遜な態度を取り続けたことが多分に起因していると考えられる」として一審の判示した会社の慰謝料額300万円を10万円に減額

ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(東京高判H25.2.27)
→会社Y1の従業員Y2が適応障害を発症して退職したXから訴えられた事件。Y2は、Xが少量の飲酒でも嘔吐するほど酒に弱いことを知りながら、「酒は吐けば飲めるんだ」といって飲酒を強要し(①)、酒で体調不良を訴えるXに運転を強要し(②)、Xが一旦帰社命令を無視して帰宅したことに対して怒りを露わにした留守電を入れ(③)、夏季休業中のXに対して「辞めろ!辞表を出せ!ぶっ殺すぞ、お前!」などの語気を荒げて留守電を入れた(④)事案。

①「単なる迷惑行為にとどまらず。不法行為法上も違法というべき」
②「上司の立場で運転を強要したY2の行為が不法行為上違法であることは明らか」
③「Xが帰社命令に違反したことへの注意を与えることよりも、Xに精神的苦痛を与えることに主眼が置かれていたものと評価せざるを得ないから、Xに注意を与える目的があったことを考慮しても、社会的相当性を欠き、不法行為を構成する」
④「ぶっ殺すぞなどという言葉を用いて口汚く罵り、辞職を強いるかのような発言をしたのであって、留守電に及んだ経緯を考慮しても、不法行為法上違法であることは明らかであるし、その態様も極めて悪質である」として150万円の慰謝料支払いを命じた。
(地裁は①〜③は違法ではないとして70万円の支払いを命じていた)
三井住友海上火災保険上司事件(東京高判H16.4.20)
→サービスセンター所長が、部下である課長代理Xの業績が芳しくなく、他の従業員の不満の原因になっていると考え、職場意識の工場を目的として、赤い大きな文字で「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものである。あなたの給料で業務色が何人雇えると思いますが。あなたの仕事なら業務色でも数倍の業績をあげますよ。これ以上、SCに迷惑をかけないでください」と記載し、Xを含む十数名の所員にメールで送付

→1審は違法性なし
→控訴審「本件メールの内容は・・・地位に見合った処理件数に到達するよう叱咤督促する趣旨であることがうかがえないではなく、その目的は是認することができる。しかしながら、本件メール中には(下線部のような)退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られるおそれのある表現が盛り込まれており、これが部下Xのみならず同じ職場の従業員十数名にも送信されている。この表現は、・・・人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分ともあいまって部下Xの名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、部下Xに対する不法行為を構成

前田道路事件(高松高判H21.4.23)
→営業所所長Aは、事業計画ノルマを達成できず、架空出来高を計上。これについて上司から厳重注意を受けたが、そのまま継続した。その後、上司から「この成績は何だ!これだけしかやってないのか!」「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが、辞めても楽にはならないぞ」「無理な数字じゃないから・・・今年は皆、辛抱の年にして返していこうや」等と営業所の従業員全員を鼓舞。所長Aはその3日後に営業所内で自殺

→1審「上司は、Aに対し、不正経理の是正等のため叱責を繰り返し行っており、その中には社会通念上許される業務上の注意の範疇を超えるものと評価せざるをえない叱責等もある」として、過失割合6割を認定。

→控訴審「各出来高の計上等の是正を図るよう指示がされたにもかかわらず、それから1年以上が経過した時点においてもその是正がされていなかったことや、・・・工事日報が作成されていなかったことなどを考慮に入れると、上司らがAに対して不正経理の解消や工事日報の作成についてある程度の厳しい改善指導をすることは、Aの上司らのなすべき正当な業務の範囲内にあるというべきであり、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えるものと評価することはできない」

③人間関係からの切り離し
松蔭学園事件(東京高判H5.11.12)
→高校の教諭が、それまで担当していた一切の仕事から外され、席を他の教職員と離して配置され、何らの仕事も与えられないまま4年半にわたって一人だけ別室に隔離され、さらに7年近く長期間にわたって自宅待機をさせられた。

→「教師として労働契約を締結した原告に対し、長期間にわたって授業および校務分掌を含む一切の仕事を与えず、しかも一定の時間に出勤して勤務時間中一定の場所にいることを命ずることは、生徒の指導、教育という・・・教師が供給すべき中心的な労務とは相いれないものであるから、特に原告の同意があるとか、就業規則に定めがあるというものではない以上、一般的に無理からぬと認められるような特別の事情がない限り、それ自体が原告にたいして通常甘受すべき程度を超える著しい精神的苦痛を与えるものとして、業務命令権の範囲を逸脱し、違法」。

→控訴審では「見せしめ的ともいえるほど次々にエスカレートし、13年の長きにわたって被控訴人の職務を一切奪ったうえ、その間に職場復帰のための機会当も与えずに放置し・・・見方によっては懲戒解雇以上に過酷な処遇といわざるを得ない」として慰謝料を増額

④不相当な職務割当て(過少な要求)
ネッスル事件(大阪高判H2.7.10)
→コーヒー豆の開発や焙煎作業に従事していた労働者が、組合専従を経て職場復帰したところ、約4年間にわたって、他の従業員から隔離され、炎天下、寒冷下で多量の粉塵が発生する作業であるコーヒー豆の回収やフィルターの洗浄業務に従事させられた。

→「回収作業の過酷さ等の諸事情も彼此勘案すると、被告主張の回収作業の必要性なるものは些かこじつけであり、他意があったとみるのが自然であり」、「原告の従事したコーヒー豆回収作業は、それ自体の肉体的負担は少ないものの、職場環境が劣悪であり、かつ隔離的措置が講じられていたものとみられるから、右回収作業は、通常の作業の労働条件と対比し、相当に過酷なものであった」として、原告の人格権侵害を理由に会社に対して慰謝料50万円を認めた。

〇マタハラとは・・・?

マタニティハラスメント(Maternity Harassment) のこと。

働く女性が妊娠、出産に伴う就業制限や産前産後・育児休業等によって業務上支障をきたすことを理由として精神的、身体的な嫌がらせを受けたり、解雇や雇止め、自主退職の強要、配転などの不利益な不当な取扱いを受けること。

→立証の困難さ(立証責任)
→セクハラ、パワハラと重なる規制のみがされてきたことによる対応の遅れ

〇妊娠・出産・育児に関する法規制

<雇用機会均等法第9条>
「婚姻・妊娠・出産を退職理由とする不利益取扱の禁止等」として禁止される事項
・女性労働者の婚姻・妊娠・出産を退職理由とした定めをすること(1項)
・婚姻を理由とする解雇(2項)
・妊娠・出産・産前産後休業等を理由とした解雇その他の不利益取扱(3項)
・妊娠中および出産後約1年以内の解雇(4項)
<育児介護休業法>
育児休業が性別に関係なく保障
・育児休業の申出や取得を理由とした解雇その他の不利益取扱いの禁止(10条)
<労働基準法>
・妊娠時の坑内労働の禁止、危険有害業務への就労制限、産前産後休業、育児時間等の保障(6章の2)

〇各段階の法規制

【妊娠中】

・妊娠したことを知られたら解雇・雇止め・パートへ転換された
 →雇用機会均等法9条(不利益取扱い禁止)
・勤務中に保健指導、検診にいけない
 →均等法12条

【出産】

・産前・産後休暇中なのに解雇された
 →均等法9条、労基法19条

【育児休業】

・申し出たのに育児休暇を取らせてもらえない
 →育介法6条
・育休を理由に解雇・雇止め、希望しない配置転換
 →均等法9条、育介法10条
・時間外労働や深夜労働をさせられる
 →育介法17条、19条、労基法66条

【復職後】

・出産前の勤務時と同等の役職に復帰させてもらえない
 →育介法10条、均等法9条

〇改正雇用機会均等法について

・改正雇用機会均等法がH29.1.1より施行
→妊娠・出産に伴うハラスメント防止措置義務
 「就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない 」(11条の2)
 →「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(H28厚労省告示312号)

〇マタハラに関する判例

広島中央保健生協事件(最一小判H26.10.23)
妊娠した勤務女性の希望に従って軽易業務へ配転し、同時に病院の副主任(手当月9500円)の地位を解いた。これについて従業員の同意あり。その後、当該従業員が、育休復職後も元の副主任に戻さなかった。

この副主任の地位を解いたことが均等法9条3項に、復帰後副主任に戻さなかったことについて育児介護休業法10条に違反するかが争われた。

→女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として」雇用機会均等法9条3項に違反する。
→例外は①「自由な意思に基づいて降格を承諾をしたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」、②業務上の必要性の内容や程度に照らして、9条3項の趣旨や目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき

〇相談を受けたときの対応

1.会社の調査状況、証拠関係の確認

・加害者及び被害者の双方からヒアリングがなされているか確認
・被害者の主張する加害者の具体的言動の内容、時期、経緯について把握できているか確認
・加害者が事実を争っている場合、周辺からの証拠収集(第三者のヒアリング、電子メール等)が尽くされているか確認
・被害者に十分な配慮がされているか確認
・調査過程が記録化されているかを確認

2.補充調査と事実認定のあり方についての助言

・不足事項の補充調査
 →被害者聴取の注意点
  ・プライバシーの保護の約束
  ・苦悩への理解
  ・相談者を責めない 
  ・カウンセラーとの連携
  ・時間は1時間以内
  ・再確認
  
 →加害者、関係者の聴取の注意点
  ・報復の防止のための措置(伝達の範囲)
  ・客観的事実把握に努める
   (加害者・被害者との関係性、独自の利益)
  ・守秘義務
 
・調査に関する方針の確認(弁護士立会いの要否)
・事実認定のあり方についての説明(客観的証拠等との整合性、経験則)
・ハラスメント事案における被害者の言動の特徴(一般の経験則に沿う対応をとるとは限らない)
・被害者への調査結果報告(中間報告も)
・調査結果として、セクハラ行為が「ある」とは言えないという場合もある。→使用者の責任を尽くすこと

3.調査結果を踏まえた対応 

・加害者の処分
→懲戒処分をする場合には十分な告知・聴聞の機会を(例外は限定的)
・被害者対応
・再発防止のための対策
・労働局対応
・不十分な事後対応
→独立した会社の責任を生じる(裁判例)

〇事後対応が不十分であった事例

福岡地判H4.4.16
→雑誌の編集出版をしている会社勤務独身女性編集者Xが男性編集長から、会社の内外の関係者らに「Xさんは結構遊んでいる。お盛んらしい」「今度は●●課長をくわえこんだみたいだぜ」「ボーイフレンドがたくさんいて、夜の仕事に向いている人だから」等の発言を2年間にわたって繰り返しされ、さらに「君は私生活が派手なんじゃないか。ずいぶん男性たちとも付き合いが派手なようだ。そういう女性はこの業界に向いてないと思う」と退職を求められたことから、Xは専務ら会社に救済を求めた。しかし専務らは、編集長とよく話し合うように、と言うにとどまり、結局、Xは退職した。

→「専務らは、Xと編集長との間の確執を十分に認識し、これが職場環境に悪影響を及ぼしていることを熟知していながら、これをあくまで個人間の問題として捉え、同年3月にXについて昇級措置を行った以外は、両者の話合いによる解決を指示するに止まった。・・・以上のとおり、専務らの行為についても、職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り、また、憲法や関係法令上雇用関係において男女を平等に取り扱うべきであるにもかかわらず、主として女性である原告の譲歩、犠牲において職場関係を調整しようとした点において不法行為性が認められるから、被告会社は、右不法行為についても、使用者責任を負うべきものというべきである」

〇就業規則の相談を受けたとき

・就業規則を定める法律上の意義

①均等法11条1項の措置の履行
②損害賠償請求における
   免責・損害額の減額
・「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」
 1.方針の明確化・方針周知(→就業規則等)
 2.相談体制の整備(→予防の箇所で説明)
 3.事後の迅速対応(→相談対応の箇所で説明)
 4.その他

服務規律に関する規定
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第X条 従業員は、職場の内外を問わず、性的言動を行い、それに対する他の従業員の対応により当該従業員に対し、その労働条件に不利益を与え、または当該従業員の就業環境を害してはならない。
2 従業員は職場の内外を問わず、前号の性的言動に類似する行為により、他の従業員の有する具体的職務遂行能力の発揮を阻害し、またはそのおそれを発生させてはならない。
 (パワーハラスメントの禁止)
第Y条 従業員は、行為の内容の如何を問わず、他の従業員に対し、いじめ、嫌がらせ等を行なってはならない。
2 従業員は、教育、指導の目的であっても、他の従業員に対し暴行、脅迫、または個人の名誉を毀損する言動を行なってはならない。
懲戒に関する規定
(懲戒の事由)
第Z条 次のいずれかに該当するときは、その情状により、けん責又は減給に処する。
①~⑤ 略
⑥ 職場内において、性的な言動によって他人に不快な思いをさせたり、職場の環境を悪くしたとき。
⑦ 職場内において、妊娠、出産、育児休業等に関する言動により、部下や同僚の就業環境を害したとき。
2 次のいずれかに該当するときは、その情状により、減給又は出勤停止に処する。
① 前項の行為が再度に及んだ者又はその情状が悪質と認められたとき。
②~⑥ 略
⑦  職場内において、性的な関心を示したり、噂を流布したり、性的な行為をしかけたりして、他人の業務に支障を与えたとき。
⑧ 職場内において、部下の妊娠、出産、育児休業等に関して、解雇その他不利益な取扱いを示唆したとき。
3 次のいずれかに該当するときは、その情状により、諭旨解雇又は懲戒解雇とする。
① 前項の行為が再度に及んだ者又はその情状が悪質と認められたとき。
②~⑥ 略
⑦ 職責を利用して交際を強要したり、性的な関係を強要したとき。

 

〇ハラスメントの予防

<ハラスメントは個人の問題ではないという意識>

→CSRの推進
・代表者のメッセージ
・ルールの作成と周知
→就業規則、ガイドラインの作成と罰則
・実態を把握する
→従業員アンケート実施、チェックリスト
・教育
→研修の実施

①管理職への注意、②適正な教育指導のあり方について共通理解

・相談窓口の設置

 →相談しやすい時間・場所
 →プライバシーへの配慮ができる方法、場所
 →窓口の社内への周知徹底
 →外部医療機関との連携
・相談対応者の指名
 →人権問題に対する理解のある識見の高い人物
 →複数選任
 →中立性の高いセクション
 →男女比同程度
 →馴れ合い防止
 →相談対応の技術向上のための研修

 ▶ 指名後は従業員へ周知すること

〇最後に

ハラスメントに関するトラブルは、事前に防ぐことができるものが大半です。裁判になった場合の見通しを含め、是非弁護士による調査、ご相談をご活用いただき、紛争を未然に防いで頂きたくお願いいたします。

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